運送業に関する裁判事例(大阪地裁平成28年4月14日判決)

1 事案の概要

トラックの運転手だった男性が突然死したため、遺族が死亡の原因は過労によるものであるとして、会社及びその代表取締役の不法行為責任(主位的請求)及び安全配慮義務(予備的請求)を根拠に損害賠償請求を求めて運送会社を訴えました。

2 当事者の主張
(1)原告(労働者遺族)側

  • ア. トラックの運転手として被告会社に勤務していたAが死亡したのは、過重な長時間労働(死亡前約3ヶ月間の時間外労働が合計160時間を超えていた。)によって心疾患を発症したことにあると主張しました。
  • イ. また、被告会社には、従業員らの実態を把握してその心身の健康に留意し、違法な長時間労働が恒常化するなどしてAの業務内容が加重となっていることを認識した場合、これを改善すべき義務があったと主張しました。その上で、長時間労働が恒常化してAの業務内容が過重となっていることを認識しながら、会社と代表取締役はこれを是正する措置を怠った過失があると争いました。
  • ウ. 安全配慮義務については、従業員が業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積してその心身の健康を損なうことのないように就労環境を整えるべき労働契約上の義務があったと主張し、急速や休日が十分に取れるような措置を講じるなどしてAの就労状況を改善しなかったと争いました。

(2)被告(会社)側

  • ア. 被告はAの過重な長時間労働があったことを否定し、業務内容としても心理的に過重な付加を伴うものではなかったし、Aが会社に対して業務が苦痛であるとかストレスを感じるといった内容の申し出をしたことはなく、点呼の歳も体調は良好であったと主張しました。そして、Aの死亡の原因は隠れた心臓病や遺伝的要因によるものであることが否定できないとして、原告の主張を争いました。
  • イ. また、代表取締役は自らが個々の営業所にいる従業員の労働時間等を直接把握・管理する立場になかったから、Aの労働時間を把握して、休憩、休日を取らせるなど、事故発生を防止するための個別具体的な措置をとる義務は負っていないと主張し、代表取締役に(不法行為)責任がない以上、会社も請求を負わないとして争いました。
  • ウ. 安全配慮義務については、会社は従業員の出勤の都度、運航管理者の面前で血圧測定とアルコールチェックなどを行い、その日の体調について質問した結果などを個人用カルテに記入するなどして運航の安全を確保し、従業員の体調管理にも十分に配慮していたとしました。そして運転手の業務の内容について決定する際にも各人の出勤時間や労働時間に対する希望を聴取した上でできる限りその希望に沿うように業務内容を決定するなどの体制を整えていたのであるから、会社は従業員らの心身を損なわないよう安全に配慮した就労環境を構築していたと反論しました。
  • エ. さらに、信義則上従業員らは自信の健康を自分で管理し、必要があれば自ら石の診察治療を受けるなどすべき義務や健康異常を被告会社に申告すべき義務を負っていたとして、会社側は過失相殺を主張しました。
3 裁判所の判断

  • (1) まず、裁判所は、Aが死亡する6ヶ月前から月に120時間から160時間ほど時間外労働していた事実を認定し、死亡の直前1ヶ月前には328時間以上の労働を行っていたとして、質的にも量的にも加重長時間労働があったことを認めました。そして、Aの死因は致死性不整脈であると認定した上で、Aの労働時間が繁忙期に増加したことで疲労や心理的負荷を蓄積させ、過重業務が長時間継続したことによる疲労の蓄積等を原因として致死性不整脈による疾患を発症し、Aは死亡するに至ったと認めました。
  • (2) 次に会社の注意義務については、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の敷監督を行う権原を有する者(本件では代表取締役)は、会社に代わってこの注意義務の内容にしたがって権原を行使すべき義務を負うとしました。
    その上で、本件の代表取締役は、積載事業部のトラック運転手の長時間労働について問題式を有しており、例年繁忙期には労使協定において最大高速時間数として定められている320時間を超える長時間労働が行われていたことを認識しており、それにもかかわらず、乗務員の増員やトレーラーの新規購入等、従業員の長時間労働を是正し、その業務負担を軽減するための具体的な措置を何ら講じることなくAの加重業務を継続する状態を放置したとして、代表取締役の注意義務違反を認めました。また、代表取締役が(不法行為)責任を負う以上、会社も責任を負うものとしました。
  • (3) 上記の理由で代表取締役及び会社の不法行為責任が認められたため、本件では安全配慮義務違反についての認定は行われませんでした。
  • (4) 過失相殺については、Aら従業員が自ら希望して長時間労働に従事していたとの事情は認められず、Aについて医師の診察治療を要するような既往症があったとの事実もなく死亡の直前まで疲労の蓄積による体調不良以外には疾病症状を呈していたとも認められないこと、さらに長時間労働の是正や業務の負担軽減を自ら申し出なかったことをもって労働者の落ち度とすべきではないという理由で過失相殺の主張を認めませんでした。
4 まとめ

この事案では、一定の規模のある会社の代表取締役が、ある事業部の個々の労働者の労働環境を是正する義務を負うかが大きな争点のひとつでした。結果として裁判所は、代表取締役に、労働者らの長時間労働の認識があったことなどを理由にこれを肯定しました。
 しかし、これはその事業部全体において、長時間の過重労働が行われていたとの認識を背景に、注意義務を認めたに過ぎず、たとえばある部署の特定の労働者のみが長時間労働を行っており、それが組織内においては未だ明るみにはなっていないような場合、代表取締役に同じような注意義務が課されることはないでしょう。
 このように、会社やその代表取締役を訴える場合、どの点がどのように労働者に害を及ぼすに至ったのか、綿密に検討してから訴えを提起しなければ請求が認められない可能性があり、注意が必要です。