小売業に関する労災事例(大阪地裁平成28年11月25日判決)

第1 事案の概要

百貨店や展示会場への什器の設置や販売を行う株式会社(以下「会社」とします。)に勤めるアルバイト従業員Aが死亡したことで、その遺族が会社を訴えた事案。遺族側は、Aが死亡した原因は、Aに長時間労働及び不規則かつ深夜にわたる労働をさせたことにより、Aが致死性不整脈で死亡したと主張し、会社に対して不法行為責任及び債務不履行責任の追及をすべく訴訟の提起をしました。
 本件で主な争点となったのは、①Aの死亡と会社の不法行為(及び安全配慮義務違反)との因果関係の有無、②会社側の安全配慮義務がアルバイトに対してもあるか、③過失相殺の是非、④損害額の算定方法です。

第2 当事者の主張
(1) 原告(遺族側)の主張

  • ア まずAの死亡と業務の因果関係について、Aの労働が一週間あたり40時間を超える時間外労働を課せられることもあり、また午後10時以降の深夜勤務時間帯に労働するなど、不規則かつ深夜にわたる勤務をAが行っていたことから、このような勤務様態がストレスや過労となって致死性不整脈を引き起こしたと主張しました。
  • イ 安全配慮義務の内容について、会社は、Aとの間で遅くともAが死亡する1ヶ月前にはあの労働時間を把握し、長時間労働となる恐れがある場合には申し込みを受け付けない等の措置を取るべき義務を負っていたといえ、その義務を怠ったと主張しました。そして、アルバイト従業員は、正社員や一定期間の雇用期間が想定される有期雇用の場合と労働環境においてことならず、ただ労働の現場や時間帯を希望できるに過ぎないから、会社側はアルバイト従業員であるAとの関係でも、このような安全配慮義務を当然に負っていたのだと争いました。
  • ウ 被告の過失相殺の主張については、会社側がAについて健康診断を受けさせる義務を負っており、Aが健康診断を受けていなかったことはAの過失とはいえないと反論しました。また、Aの食生活が不規則となっているのは勤務時間の不規則性や休憩時間が与えられなかったことによるものだと主張しました。
  • エ 損害の額について、原告側は、実際の年収に加えて、法律上支払われるべき時間外労働分の賃金も年収に加算して損害額を計算すべきと主張しました。

(2) 被告(会社側)の主張

  • ア まずAの死亡については死因が心臓疾患とする証拠がないとして死因を否定しました。また、Aの労働時間及び時間外労働時間は原告が主張するよりも大幅に下回るものであって、さらにAはアルバイト従業員であるから、時間外労働については、1週間に満たない日数(29日目、30日目)については、その総労働時間数から11時間25分(40時間÷7日×2日)を引いて、2日間の時間外労働時間数とすべきであると主張しました。また、会社には2時間半以下の労働時間のときは賃金を2時間半分支払うとするルール(通称2時間半ルール)が存在し、実体的な労働時間は記録の時間よりも短いものであったから2時間半の記載のところは平均値を労働時間と見なすべき、さらに移動時間や休憩時間も賃金の対象としていた、労働時間が6時間を超える場合には1時間の休憩を与え9時間を超える場合には2時間の休憩を与えていたなどと主張しました。
  • イ 安全配慮義務については、会社とAとの間には存在しないと主張し、各アルバイトは勤務日数や作業量を決定することができ、申し込み後もキャンセルをすることが可能であったこと、会社側は各現場の作業日の1週間前からアルバイト授業員の申し込みを受け付けることからその後のアルバイト従業員の作業予定を把握しておらず、申し込みを受ける段階で、アルバイト従業員が長時間労働となるおそれがあるのかを判断することはできない、被告は多数のアルバイト従業員の申し込みを一斉に受けてから人員配置を行うため、個々のアルバイト従業員の事情を考慮して受け入れの是非を決めるのは困難であるといった反論をしました。
  • ウ そして、原告は会社における健康診断対象者に含まれていないことから、自ら定期的に健康診断を受ける等して健康管理をすべきであったのに、長期間にわたり健康診断を怠り自身の健康管理を怠っていたとして、会社は過失相殺を主張しました。
  • エ 損害における逸失利益の計算については、家庭の金額ではなく、実際の年収を元に計算すべきと主張しました

第3 裁判所の判断

  • 1  まず、Aの死因について、裁判所は複数の医師の意見を参照に、致死性の不整脈であると認定を行いました。その上で、Aの労働時間については作業実績一覧記載の作業開始及び終了時間に基づいて計算すべきとして、2時間半ルールについては存在が確認できるものの、実際に現場の作業において当該ルールが適用されたかは記載からは判断できないし、最低作業時間も不明であるから、被告が主張するように平均値を労働時間とすることは妥当ではないとしました。休憩時間については、百貨店以外の現場においては実際に与えられていたものと認定し、その分を労働時間から除外すべきとの会社側の主張を認めましたが、移動時間については指揮命令下に労働者が存する以上労働時間に含むとしました。最終的に、裁判所はAの労働が過重なものであったことを認め、過重労働による疲労やストレスがAの死因となる致死性不整脈の発症につながったとして、A死亡との因果関係を肯定しました。
  • 2  安全配慮義務について、裁判所は、会社は雇用する授業員の従事する業務を定めて管理するにあたり、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が蓄積しないように労働者の心身の健康を損なわないようにする義務があるとした上で、会社とアルバイトとの労働契約は法形式としてはアルバイト側の申し込みに応じて会社が具体的に作業場所を指示し、アルバイトが現場の作業に従事するという形式をとるものの、会社はアルバイト従業員が1日のうちに複数の現場に赴いて稼動することがあることを当然の前提として、賃金に関する諸々のルールを設けていたのであるから、会社が個々の現場での作業を完全に独立のものとして扱っていなかったというべきとしました。また、決まったシフトの存在しないアルバイトは作業時間・作業内容の異なる現場で日々業務を行うことから、長時間労働を行う者にとっては稼動の時間が不規則であり疲労の蓄積を招きやすい状況であったとしました。そして、Aの年収が400万円を超えるなどの事情から、Aが長時間勤務していたことを会社側は認識していたものとし、これらの事情を踏まえれば、会社とAは形式上個々の現場ごとに労働契約を締結しているものの、期間の定めのない雇用契約の場合と同様に、会社側はAについて業務に伴う疲労等の蓄積により心身の健康を損なわないように注意する義務を負っていたと判断しました。その結果、遅くともA死亡の1年前に、会社はAからの申し込みについて作業時間や作業内容を考慮してAの労働時間を適切に管理するなどの義務を負っていたものといえ、にもかかわらず会社はその措置を取らなかったとして安全配慮義務違反を認めました。
  • 3  過失相殺については、Aと会社の労働契約上、Aが会社に対して作業に入る旨の申し込みをしなければ、Aには業務が課せられなかったのであるから、Aとしても自身の疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なう事態を避けるために、自らにおいても業務量を適正なものとして休日を十分に取ることで疲労の回復に努めるべきであったものとし、A死亡の損害の全てを会社の負担とすることは妥当ではないと判断しました。その結果、本件ではA側の過失が3割と認定され、過失相殺が認められました。
  • 4  逸失利益について、裁判所は原告側の主張である法定時間外労働についての労働基準法所定の割増賃金等を収入に加えて算出すべきとの主張を退けました。当該割増賃金等について、アルバイトは当然には請求はできないほか、実際にこれまでも割増賃金による支給がなされていない以上、割増賃金を考慮することはできないと判断しています。

第4 まとめ

本事案では、アルバイトのついても企業側が安全配慮義務を負うのかが問題となりました。結果として、この裁判例ではアルバイトについても一定の場合に会社側が安全配慮義務を負うことを認めていますが、この判断は一般化できるものではなく、事情によっては安全配慮義務を企業側が負わない可能性も考えられます。そこで、アルバイト従業員が会社を訴える場合には、会社がどういった様態でアルバイトを使用していたのかがとても重要です。 
 また、アルバイト故に勤務日程等を事由に希望できる労働者側にも、自らの健康を踏まえてアルバイトの申し込みをするべきとの理由で過失相殺を認めた点にも特徴があります。アルバイ従業員の方は、自身の体調とよく相談した上で、勤務日程を組むことをお勧めします。