建設業の労働災害事例(東京地裁平成28年9月12日判決)

第1 事案の概要

植物管理工事をすることとなった会社(元請会社Y4)が、当該工事を下請会社(第一次下請会社Y3)に下請けをし、さらにこの会社が下請けを行った(下請先を第二次下請会社Y1とする。)ところ、この第二次下請会社に勤務する従業員Xが、作業中に転落する事故により受傷し、後遺障害を遺すこととなってしまいました。
そこで、X(原告)は第二次下請会社Y1及びその代表者Y2と、第一次下請会社Y3、元請会社Y4を相手として、安全配慮義務違反による損害賠償請求の訴訟を提起しました。
 主な争点は、①Y1及びY2の責任の有無、②Y4の責任の有無、③Y3の責任の有無、④過失相殺の是非、⑤損害の額です。

第2 当事者の主張
1 原告側の主張

  • (1) Y1、Y2の責任ついて
     Y1はAとの間で労働契約を締結していることから、労働契約法5条所定の安全配慮義務をXに対して負う具体的には墜落災害を防止する義務として、作業床の設置が困難出ない場合は囲い等が設置された作業床が設置されるまで高さ2メートル以上の箇所での作業を禁止し、作業床の設置が困難で安全帯を使用しての作業となる場合には、安全帯を取り付けるための設備の設置が終わりその使用方法について教育訓練が完了するまでは高所作業を禁止することによって事故を防止する義務があったと主張しました。そして、Y2については、Y1の代表者として上記安全配慮義務を履行しなければならないにも係わらずこれを怠ったことから、民法709条により賠償責任を負うと主張しました。
  • (2) Y4の責任について
     Y4に対して、原告は①下請がさらに第三者を使用して他人に損害を与えた場合、元請の指揮監督関係が直接又は間接的に及んでおり、かつそれが元請の事業の執行として行われていた場合には、元請会社は民法715条により責任を負うため、Y2の責任についてY4も責任を負う、②Y4の選任した安全衛生責任者は、労働安全衛生法により墜落防止義務をおうところ、同人がこの義務を怠った結果Xは損害を被ったことから、この責任者の使用者であるY4には民法715条による責任が生じると主張しました。
     さらに、Y4はY3に対して請書を提出し労働者の生命身体健康の安全のために万全の措置を講ずる旨を訳していること、Y4の選任した安全衛生責任者は現場の安全衛生を確保することのできる地位と権限を有していたことY4が工事現場において朝礼を行い作業員の安全について点検を行ったほか、安全パトロール等を実施していたことなどから、Y4はXとの間に特別な社会的接触があったものといえ、Xとの関係で安全配慮義務を負う。具体的にはY1の安全配慮義務内容と同一の措置をY3などに対し求めたりすることが必要であったと主張しました。
  • (3) Y3の責任について
     ①下請がさらに第三者を使用して他人に損害を与えた場合、下請の指揮監督関係が直接又は間接的に及んでおり、かつそれが下請の事業の執行として行われていた場合には、下請会社は民法715条により責任を負うため、Y2の責任についてY3も責任を負う、②Y4の選任した安全衛生責任者についても、Y3は事故の従業員の管理監督に服するべきことを取り決め、当該従業員によりこの責任者に対して直接または間接的に指揮命令関係があったものであるから、責任者の後遺について民法715条により責任を負うと主張しました。
     さらに、③Y3は、本件工事現場において物的施設を決定する権限を有しており墜落防止措置等の方法を決定し、指示を発し機材を購入して作業員に供給するといった地位にあり、現場の巡回や点検も行っていたこれらの事情から、XとY3は特別な社会的接触の関係があり、Y3はXに対して安全配慮義務を負うと主張しました。
  • (4) 過失相殺について
     Xは高所作業を伴う造園作業等の経験がなく、そのための教育も受けていなかったところ、本件事故は被告らが必要な物的施設や機材を整備してXに使用させたり、物的設備が整備されていない現場での作業を禁止したりしなかった結果生じたものであるから、Xに過失はないと主張しました。

2 被告側の主張

  • (1) Y1、Y2の責任について
     安全衛生法上定められる足場や安全ネット、囲いなどの設置義務は、作業の連続性のない高所作業には当てはまらないものであり、本件では安全帯の使用が一般的な場面であるが、Y2はXに対し安全帯の使用を指示し、使用させていた。またY2は事前に作業の手本を見せ作業の歳には声を掛け合いヘルメットと安全帯の着用を確認するなどの十分な注意をしていたため、安全配慮義務に反したとはいえないとしました。
  • (2) Y4の責任について
     Y4は本件工事について具体的な作業の進め方や必要な機材の選択、従業員の安全管理等をY1に一任していたし、Y4の従業員は現場での作業に従事したことはないから、Y4とXが特別な社会的接触の関係になったとはいえないと主張しました。
    また、Y4は一次下請として週に1度、二次下請が実施する現場の朝礼に立ち会う、二次下請が作成する日報の提出を受ける、本件工事現場の安全パトロールを随時行うなどの安全対策を尽くしていたと反論しました。
  • (3) Y3の責任について
     Y3は、Y1とは独立してそれぞれ業務を行っており、Xへの指揮命令関係も認められず、現場においても具体的な指示をしていないほか、道具類も一切支給していないことから、Y3とXは特別な社会的接触があったとはいえない。
     また、高所作業車の使用や仮設足場の設置は法令上義務づけられているものではなく、二丁掛けの安全帯の使用についても義務づけられておらず慣習上の義務ともいえないからY3がこれらの防止措置を取る必要はないと主張しました。
  • (4) 過失相殺について
     被告らは、Xに対して安全帯を使用するように告げており、それにもかかわらずXは作業中に安全帯を外して作業した結果転落したのであるから、本件事故の原因はXの不注意による部分が大きく大幅な過失相殺がなされるべきであると主張しました。

第3 裁判所の判断

  • 1 Y1・Y2の責任について
     Y1は直接Xと雇用契約を締結していたことから、その付随義務として、Xに対し安全配慮義務を負っていたと認めました(ただし、原告が主張するように労働安全衛生法を根拠に認めたわけではなく、雇用契約の義務内容として認めた点に注意が必要です。)。安全配慮義務の具体的な内容としては、安全帯の使用までは必要ないものの三点支持の方法により落下を防止すべきであり、Xに高所での作業経験がないことから、Y1としてはY2をしてXに対し落下事故を防ぐための具体的な指導を行う必要があったとしました。そして、Xの高所作業の経験がないことを認識しながら、Xに三点支持の方法による安全確保の具体的な指導を怠ったとして、安全配慮義務違反を認めました。
     加えて、Y2については、Y1が実質的にはY2の1人会社であることや、本件工事において現場で業務の指導監督を行っていたのはY2であることから、Y2にはY1の代表者としてY1が請け負った作業についてAを従事させるにあたり、Y1の上記義務を履行する義務があったとして、不法行為責任を肯定しました。
  • 2 Y4の責任について
     裁判所は、元請人は通常下請会社の雇用する従業員との関係で安全配慮義務を負わないとした上で、元請人と下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係が認められる場合には、元請人は信義則上労働者に対して安全配慮義務を負うとしました。そして特別な社会的接触の有無については、元請人の管理する設備、工具等を用いていたか、労働者が事実上元請人の指揮、監督を受けて稼動していたか、労働者の作業内容と元請人の作業員のそれとの類似性等の事情に着目して判断するのが相当であるとしました。
    もっとも、本件では確かにY4の派遣した責任者が週2、3回安全パトロールを行い安全衛生に関する指示を実施していたが、この責任者は現場に常駐していた訳ではなく、本件工事に用いる道具等をY4が供給した事実もないこと、責任者は作業日の朝に訪れた際にも具体的な作業工程の指示灯を行っていないことなどを踏まえると、上記の特別な社会的接触は認められないとして、Y4の安全配慮義務を否定しました。
     また現場の責任者を使用していたことから使用者責任(民法715条)を負うとの原告の主張についても、安全衛生法上の義務は公法上の責任であり、私法上の責任とは同視できないから、同法を根拠としては直ちに安全配慮義務は生じないとし、責任者に不法行為責任は生じない以上この請求を認められないとしました。
  • 3 Y3の責任について
     Y3についてもY4同様の理由から安全配慮義務を負う可能性があるとしました。
     そして、Y3は直接の下請会社でアルY4に対して本件工事全体に関する安全衛生事項の注意喚起を行った上で、個別の工事について安全指示書のやりとりにより安全帯の着用使用についての指示を行っている。しかしXらに作業員に対して新規入場者講習を実施しているがその内容は作業現場におけるマナー等によるものであり個別具体的な作業内容を想定したものではなかったほか、現場でのXら下請けの作業員に対して直接指導指示をした事実はなかったということから、Y3はXと特別な社会的接触の関係に入ったとはいえず、安全配慮義務は生じないとしました。
     またY2とY3の間に直接的間接的な指揮は存在せず、Y4の専任した責任者については不法行為責任が成立しないことから、これらの者との関係でもY3が使用者責任をおうことはないとしました。
  • 4 過失相殺について
     裁判所は、Xに本件事故以前における木に登って行う剪定作業の経験が浅かったことから実地における作業を通して具体的にどのような場合に安全帯を使用すべきか、使用できない場合にとる方法について指導を受けることなしには安全を確保することができなかったとし、具体的な指導がAに行われていない以上、Xに過失は認められないとしました。

第4 まとめ

この裁判例では、労働者の直接の雇用先である会社の責任はもちろん、それ以外の元請会社、第一次下請会社の法的責任も問題になりました。結論として、本件では直接の雇用先以外の会社の責任は否定されましたが、裁判例はこれらの会社についても安全配慮義務が生じる余地を認めています。その基準として示されているのは、①元請人の管理する設備、工具等を用いていたか、②労働者が事実上元請人の指揮、監督を受けて稼動していたか、③労働者の作業内容と元請人の作業員のそれとの類似性等の事情です。
 これは、簡単にいえば、元請会社が下請会社の従業員を実質的にみて、事故の会社の従業員のように扱っていたかという観点であるように思われます。
 したがって、労働者の立場からいえば、労働災害が発生する前の現場の管理体制や監督がどのようにして行われていたのか、直接の雇用先にとどまらず全体として把握する必要があるといえるでしょう。