製造業における労働災害事例(高松地裁平成21年9月14日判決)

第1 事案の概要

石線管を製造していた工場の元従業員及び遺族が、工場で作業中に石線粉陣に曝露したことによりアスベスト肺等の石線関連に罹患あるいは死亡したとして、工場側の安全配慮義務違反及び不法行為による損害賠償を求めた事案です。
これに対して工場側は、

  • ①安全衛生に関する手帳の配布による衛生措置の周知や労使による安全衛生委員会の定期的な開催及びその他安全及び衛生に関する啓蒙活動を行っていた(当時の水準で安全配慮義務の違反等はなかった)
  • ②工場が設立された昭和7年の当時に、会社は石線粉じんが従業員らの生命身体に重大な影響を与えることについて予見することができなかった(予見可能性の否定)
  • ③石線曝露と従業員らの罹患や死亡は因果関係がない
  • ④従業員らの請求権はいずれも消滅時効により消滅している。
  • との主張を行いました。

    第2 判決内容

    裁判所は上記の会社側の反論について、以下のように判断しました。

    • ①安全配慮義務の内容として、定期的な粉じん測定とそれに基づく作業環境の評価を行うこと、粉じんの発生・飛散を要請する措置をとること、換気対策と集じん機の設置、呼吸用マスクの支給、じん肺教育のほか、じん肺健康診断の実施や罹患者の配置転換等の措置をとること、などが必要であるとしました。そして、これら全ての措置について、会社側に義務違反があったことを認定しました。
    • ②石綿粉じんによる健康被害の防止に関する法律が昭和22年頃から規制に着手され、昭和35年にはほぼ完成したとみられることから、昭和33年には健康被害の発生について予見可能となり、対策を緊急にとる必要性について認識すべき段階になっていた(それ以降に雇用した従業員との関係で、会社に予見可能性はあった。)。
    • ③個別の従業員との関係で判断し、多くの従業員の損害について因果関係を肯定しました。
    • ④じん肺を原因とする死亡による損害賠償請求権の消滅時効は、死亡のときから進行すると解するのが相当とし、消滅時効の期間が経過している従業員との関係でも、当時従業員にはじん肺の症状を的確に把握し会社に請求をすることができなかったとして、会社が従業員に対して消滅時効の援用をすることは権利の濫用として許されない旨の判断をしました。
    第3 この判決からいえること

    本件では、労働災害で企業側が問われる債務不履行責任(安全配慮義務違反)と、不法行為に基づく損害賠償請求がそれぞれ提起されています。上記のように、裁判所は安全配慮義務について、具体的にどのような義務があったかを設定し、それに基づいて安全配慮義務違反の有無を検討しています。この裁判所の認定した安全配慮義務の中身は、原告側(労働車側)がある程度具体的に示していかなければならないため、会社の安全配慮義務違反を追及する場合には、専門的な視点や調査が自ずと求められることになります。一方で、不法行為責任を追及する場合であっても、会社側の過失(労災の原因となった会社の落ち度)を具体的に原告側が主張しなければならず、結局のところ専門的な調査が要求されることになるのです。
     したがって、労働災害で会社を訴える場合には、十分な準備が必要となります。