労働災害と損害賠償

1 労災保険以外の解決の方法

労働災害が発生してしまった場合、被害に遭った労働者は、会社の過失に関係なく、一定の金額の労災保険給付を受けることで、損害の補填を図ることができます。

もっとも、労災保険による給付は、労働者の損害の一切を補填するものではなく、たとえば労災によって労働者が休業した場合、その間の賃金の80%が補償されるにすぎません。そうすると、労災保険があるからといっても労働者の救済には十分ではないこととなります。もっとも、この労働災害が会社の過失によって生じたものといえるのでならば、労働者は会社に対して損害賠償請求をすることによって、救済の道を開くことができます。

2 会社への損害賠償請求の種類と特徴

(1)損害賠償請求といっても複数の種類がある

会社に対して損害賠償請求をするといっても、その法的構成には、2種類の方法が考えられます。

その2種類の方法というのは、①不法行為に基づく損害賠償請求と②債務不履行に基づく損害賠償請求のことです。
以下ではそれぞれの内容や特徴について解説します。

(2)不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)

まず、不法行為に基づく損害賠償請求権を用いて会社を訴える場合、以下の要件を満たす必要があります。  ①自己の権利・利益の存在
 ②相手方の侵害行為の存在
 ③損害の発生及びその額
 ④相手方侵害行為と損害の発生の間の因果関係
 ⑤相手方侵害行為が故意または過失によること

このうち、①は自己の生命・身体や財産上の利益が主張され、この点が争点となることは少ないです。また②についても労働者自身による自殺などの場合を除けば、事故そのものを主張することで足りるためあまり問題になりません。

もっとも、それ以外の③~⑤についてはいずれも争点となるのが一般的です。

すなわち、労働者に発生した損害はいくらになるのか、その損害はいずれも労働災害により発生したものといえるのか、さらにはその労働災害は企業側の故意・過失により生じたものといえるのか、といった形で争われることとなります。

そして、この中でもっとも労働者の障害となり得るのは、企業側の過失を労働者の方で具体的に特定して、主張立証する必要があるということです。

これは事故の内容によっては専門的な知識が要求されるほか、証拠の収集の観点からも困難が伴うことが多いです。

(3)債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)

次に、債務不履行に基づく損害賠償請求権を用いて会社を訴える方法の場合、以下の要件を満たす必要があります。
 ①相手方の債務不履行の存在
 ②損害の発生及び額
 ③相手方債務不履行と損害発生の因果関係
 ④相手方の帰責性

このうち、①については、会社の安全配慮義務違反を主張することが一般的です。安全配慮義務とは、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う」義務のことを指します(最判昭50年2月25日第三小法廷)。これを労働災害の場面に即して具体的にいえば、労働者と使用者という関係に立つことになった両者の間において、使用者側は労働者が安全に働くことのできる環境を用意しなければならないという義務が使用者側にはあり、これに反することで労働者に労働災害が生じた場合、使用者には安全配慮義務の違反が認められるということになります。この安全配慮義務の内容は、労働者の側が具体的に指摘し、主張立証することとなります。

一方で、安全配慮義務の違反について使用者側に帰責性(故意または過失または信義則上これと同視し得る事情)がないことについては、使用者側が主張立証することとなります。
 ②や③が争点となるのは不法行為の場合と同様です。

(4)両者の違い

不法行為と債務不履行の違いとしては、まず上述のように、それぞれで労働者が主張立証責任を負う事実が異なるという点が挙げられます。

前者の場合、相手方の権利侵害の内容と故意または過失の存在を主張立証する必要がありました。これに対して後者では、相手方の恋又は過失に相当する帰責性に関する主張は会社側に主張立証責任がありますが、相手方の安全配慮義務違反の内容については、労働者側が主張立証責任を負うこととなります。

つまり立証の負担、困難性については、労働者の側からみて、あまり大きな違いはないことになります。

もっとも、両者は時効期間が異なるという点では注意が必要です。

不法行為の場合は、損害の発生を被害者が知ったときから3年、又は侵害行為のあった日から20年で請求権が時効により消滅します。

これに対して、債務不履行の場合は、債務不履行の時から10年となっています。

労働災害の場合、知らぬうちに損害が発生していたということは考えにくいため、不法行為の消滅時効については特に注意が必要となります。

(5)いずれの場合も過失相殺の恐れはある

両者に共通して注意が必要なのが、いずれの請求も労働者側に過失があり、それが労働災害発生の原因となっているような場合、過失相殺がなされ、賠償額が減額されるという点です。

このような場合、労働者としては、自己に過失がなかったと争い、あるいは過失割合について争うことで減額される金額を抑える必要があります。

(6)結局どちらの請求をするのか

結局のところ、労働者としては双方の法的構成に基づいて、会社に請求をするのが一般的です。したがっていずれか一方の請求に絞る必要性はありません。

3 会社に対する損害賠償請求は弁護士に依頼を

上記のように労働者側は、いずれの請求によるばあいであっても、一定の事実を主張立証する必要があります。また、損害額の算定など、専門的な知識を有していなければ主張することが困難な事実も裁判所に対して主張立証していかなければなりません。十分な賠償を得るためにも、会社に対して損害賠償請求をする場合には、専門家である弁護士に相談することをお勧めします。